メモ的ななにか

@Maleic1618

数学科の人にお勧めしたい数学書

調べるといろんな人がお勧めの数学書を書いているけれど,自分が読んでいた本がほとんど挙げられていなかったので書いてみることにしました.

ちなみに筆者の専門は複素幾何です.

(ほとんど)読んでないけど良さげだなと思ったり良い評判を聞いてる本は(*)付きで書いています.

勉強する本を選ぶときの参考になれば.

 

線形代数

(1)齋藤 正彦著 『線型代数入門』(東京大学出版会)

(2)(*)永田 雅宜著『理系のための線型代数の基礎』(紀伊国屋書店)

(3)斎藤 毅著『線型代数の世界―抽象数学の入り口』(東京大学出版会)

(1),(2)はオーソドックスな線形代数の教科書.(2)は終結式について触れられており,一時期頻繁に参照した.

(3)はちょっと難しめの本で定義が通常と異なる場合がところどころある.最初にこの本で勉強するのは少し難しいかもしれないが,非常に詳しく書いてあるのである程度線型代数を使うようになってから1度目を通してみるといいと思う.

微分積分

(1)杉浦光夫著『解析入門』(東京大学出版会)

最初に読むのにいい本が思いつかないので,授業の指定教科書を適当に読んで困ったときに(1)等を参照すればよいと思う.ちなみに筆者は小林昭七著『微分積分読本』(裳華房)を読んで勉強した.

位相空間

(1)内田伏一著『集合と位相』(裳華房)

(2)内田伏一著『位相入門』(裳華房)

(3)(*)松坂和夫著『集合・位相入門』(岩波書店)

(2)は(1)の位相パートだけ抜き出した本.(3)では(1)では扱っていない順序数とかも扱っているらしいが,知らなくても自分は困ったことがないので別に好きな本を選べばいいと思う.位相を最初にがっつりやるよりも適当に読んで多様体の本とかで実際に触れていくのが一番いいと思う.

(次の話は参考程度にどうぞ)より詳しい話については,

(4)(*)ジョン・L・ケリー著『位相空間論』(吉岡書店)

(5)(*)ブルバキ著『数学原論 位相』(東京図書)

らへん?位相空間論に強い人が読んでいる印象.

複素関数

(1)神保道夫著『複素関数入門』(岩波書店)

(2)野口潤次郎著『複素解析概論』(裳華房)

(3)(*)L.V.Ahlfors著『複素解析』(現代数学社)

(1)は初学者向け.ただ扱っている内容も少なく,詳細な議論を多少省略しているところもある.(2)は収束の議論や線積分ホモトピーの話等が詳しく載っており,また解析接続や有理型関数についても非常に詳しい.(1)のchapter.4くらいまで読んでから(2)に移行するといいかもしれない.

(3)はとても有名な本だがちょっと古すぎるとかいう声がちらほら.でも扱っている内容は非常に多い.

多様体

(1)松本幸夫著『多様体の基礎』(東京大学出版会)

(2)森田茂之著『微分形式の幾何学』(岩波書店)

(3)(*)F.W.Warner著『Foundations of Differential Manifolds and Lie Groups』(Springer)

(4)(*)松島与三著『多様体入門』(裳華房)

(1)は多様体の定義が書いてあるだけなので,面白い話はほとんど書いてない.位相空間論を勉強した次に読むといいと思う.(2)はde Rhamの定理や特性類等について書いており,多様体関連の面白い話題があると思う.ただし議論が非常に雑だったり本質的なところが省略されていたりするのであまり深追いせず流し読みするくらいでいいと思う.(3)は多様体についてざっとやったあとLie群の話があるのだが,ぱらぱらと読んだ感じself-containedで非常に読みやすかった.

(4)はだいぶ昔からある本だが,非常に行間が多いと知り合いがよく言っていた.Lie群のところはわかりやすいらしい.

群・環・体

(1)堀田良之著『代数入門―群と加群―』(裳華房)

(2)(*)雪江明彦著『群論入門』(日本評論社)

(3)(*)雪江明彦著『環と体とガロア理論』(日本評論社)

(4)Atiyah, MacDonald著『可換代数入門』(共立出版)

(5)松村英之著『可換環論』(共立出版)

(6)(*)藤崎源二郎『体とガロア理論』(岩波数学基礎選書)

群論は筆者は(1)を読んだが初学者には少し難しいかも.比較的最近に(2)が出てよいという話をよく聞く.(3)は名前の通り環,体,ガロア理論を扱っていて,(2)と(3)にもう1冊くわえて1シリーズになっている.self-containedな形になっているので今からやる人はこちらでよいのでは.

環論単体の本として,入門書は(4)が昔からある本として有名.体論をやるために環論を学ぶ人はChapter.3くらいまで読めば十分だと思う.個人的には準素分解の話は素因子を使ったほうが分かりやすいと思っているので,Chapter.1,2,3,6,7くらいを読んでから(5)を読むのもいいかもしれない.

(5)はより進んだ内容が非常に詳しく書いてあって定評がある(はず),しかし行間が多い.(Section.15で読むのをやめました)

(6)は体論について非常に詳しく書いてあるらしい.代数系専門の友人がよくこれを読んだり参照していた記憶.

ルベーグ積分

(1)伊藤清三著『ルベーグ積分入門』(裳華房)

(2)(*)吉田伸生著『ルベーグ積分入門―使うための理論と演習』(遊星社)

(1)は古くからある本で有名.とりあえずこれ読んでおけば間違いないと思う.ただし関数解析パートは関数解析の本を読めばいいんじゃない?という人が割と多いと思う.

(2)は(1)よりも分かりやすいらしい.先輩から伊藤本とは別に提案された記憶がある.自分の周りの人はみんな(1)を読んでいたので結局どうなのかはわからない….

関数解析

(1)(*)黒田成俊著『関数解析』(共立出版)

(2)(*)黒田成俊,藤田宏,伊藤清三著『関数解析』(岩波数学基礎選書)

授業で勉強したので,本はほとんど読んでいません.(1)(2)が多くの人が読んでいる本かなと思います.

 

多分これで学部3回くらいまでの内容は網羅出来たと思います.あ,微分方程式と統計は一切勉強したことがないのでわかりません.

あとは自分がやっていた分野の本とかを.

代数トポロジー

(1)(*)中岡稔著『復刊 位相幾何学ホモロジー論』(共立出版)

(2)(*)Allen Hatcher著『Algebraic Topology』(Cambridge University Press)

(3)田村一郎著『トポロジー』(岩波書店)

(1)は先輩方が推していた本で,ぱらっと見たけれどよさげだった.(2)は著者のWebサイトで無料で公開されていて,そのせいか結構多くの人が読んでいる印象.

筆者は服部晶夫著『位相幾何学』(岩波数学基礎選書)を読んで爆死しました.この本は初学者には向かないと思います.(今は(1)を読めばよかったと後悔しています.)

(3)は(1)(2)と違って全く前提知識がいらない初学者向けの本で,位相や群の説明もされているとても易しい本です.1,2回生にぜひ読んでほしい.

リーマン面

(1)O.Forster著『Lectures on Riemann Surfaces』(Springer)

(2)(*)小木曽啓二著『代数曲線論』(朝倉書店)

(3)今野一宏著『リーマン免と代数曲線』(共立出版)

(1)(2)は層のコホモロジーを用いてRiemann-Rochの定理を証明するのがメイン.少なくとも複素幾何の方面に進むなら層の理論の勉強は避けられないのでここで勉強するのがいいと思う.(1)か(2)かについては好きなほうでいいと思う.

(3)は層の理論を使わずにRiemann-Rochの定理を証明しており,層を説明する分のページを自己同型群の有限性やTorelliの定理に割いている.すごく面白いので,ぜひ読んでほしい.

自分の専門関連

(1)小林昭七著『複素幾何』(岩波書店)

(2)(*)D.Huybrechts著『Complex Geometry』(Springer)

(3)金銅誠之著『K3曲面』(共立出版)

(4)野口潤二郎著『多変数解析関数論―学部生に送る岡の連接定理』(朝倉書店)

(5)若林 功著『数学のかんどころ 21 多変数関数論』(共立出版)

(1)は代数的な視点から書かれた複素幾何の本でHodge decompositionやSerre Dualityらへんがメイン.雑な部分もまあまあある.(2)も代数的な視点から書かれた本でとても分かりやすく,(1)を読むうえで度々参考にした.

(3)は筆者が今ちょうど読んでいるところで,幾何的な議論がすべて格子の理論に帰着でき非常に面白い.

(4)は複素幾何を始める前に読んでいた本で,複素関数論のところでも紹介した『複素解析概論』の次に読める本で非常に面白い.(このブログにあるpdfで多変数複素関数論に触れているものがあるので,よかったらどうぞ.)

(5)は詳しい証明等は行っておらず,エッセンスだけを紹介している本.多変数複素関数論が気になった方はとりあえずこれを読んでみるといいかも.

 

以上です.繰り返しますが,筆者はここで挙げた本をすべて読んでいるわけではありませんので本を選ぶ際の参考程度にしていただければと思います.